野菜人・果物人
野菜人・果物人第101回前編 シュレスタ 勝さん(皆農塾 農場長)

第101回前編 シュレスタ 勝さん(皆農塾 農場長)

田畑を耕し動物とともに・・・自然の中に居場所を見つけた、21歳

●不登校だった14歳時、皆農塾が自分を変えた


皆農塾 農場長・シュレスタ 勝さん

ご職業 皆農塾 農場長
座右の銘 ねだるな。勝ち取れ。さすれば与えられん。

 埼玉県寄居町にある「皆農塾(かいのう塾)」は、非農家出身者のための農業塾。農薬や化学肥料を使わずに育てた野菜と有精卵を生産販売し、「食」の自給に重きを置きながら、羊を飼いその羊毛を使った「衣」の自給体験もできる農業塾です。

「百姓は、その季節、その時々の仕事をするの。自然には逆らわない。思い通りにならなくても、種を蒔き続けるのよ」

そう語るのは、1985年、仲間達とともに皆農塾を開いた代表の鈴木恵子さん。そして現在、その力強い言葉の下、恵子さんの愛弟子として働くのが、今回の主役、シュレスタ勝さんです。恵子さんとは親子以上に年の離れた若き農場長。日本人とネパール人の血を引く顔立ちのせいか、どこか大人びた印象の持ち主ながら若干21歳。しかも、この若さで農業に従事して7年と聞けば、みんな驚くでしょう。

「皆農塾に来たのは14歳の時。いわゆる不登校だった自分を見かねて、母が以前から交流のあった恵子さんに相談に来たんです。そこで恵子さんは、『それなら、息子さんを、うちに寄こしてみたら?農業やったらね、学校の方が楽だって思うわよ』と言い放ったそうなのです」

7年前の大人のやり取りに、苦笑いする勝さん。

「初めは、農業をやりたくてきたわけじゃなくて、不登校でうじうじしているだけの自分からどうにかして抜け出したいと思って来たんですよ」

そう話す表情は、21歳らしいくったくのない笑顔を見せてくれます。

●畑の草取りも嫌だった皆農塾での生活の一週間


くず麦・ぬか・とうもろこし・おから・魚粉等を混ぜて作ったオリジナルのえさと無農薬の葉っぱを食べて育つ、皆農塾の鶏たち

皆農塾での勝さんの母親代わり、代表の恵子さん(左)と大島さん(右)。二人は旧知の友人でもあります


 「皆農塾」は農薬を使わない自然循環型の農業。当然ながら、田畑を耕すだけでなく動物を飼いその糞も利用し、自家製堆肥も作ります。5頭のひつじ、600羽のにわとりに、あいがも、アヒル。生き物の飼育も決して楽ではないでしょう。「21歳には辛いことも多いのでは?」と聞けば、そこは、7年間ここで農業生活を行っている人。

「時々、『有機農業は大変なのに、すごいね』と言われますが、本当のところ、僕はこの農業しか知らず、他との比較もできない。ただ、恵子さんが築いてきた農業を引き継いでいるだけですから」

と、さらりと話し有機農業への気負いを感じさせません。
しかし、ここへ来るまでは「さぼり癖・逃げ癖」から抜け出せなかった、14歳の男の子。最初は草むしりさえ面倒で、畑に出るのも嫌々だったとか。

「でも、恵子さんに頼まれた大工仕事だけは楽しくて!苗を育てるための建物を作ったんですけど、その完成がきっかけで、少しずつ労働することに気持ちが向いていきました」

それからは、畑の耕し方、苗作りに種・苗の植え方、間引きの仕方、収穫作業から出荷、それにハウスの建て方や、野菜の見極め方。動物達の世話はもちろん、動物小屋の作り方に堆肥の作り方まで、一年を通し、農家の仕事を経験し覚えていくことに。
14歳の若者は一つの喜びを体験して、ここでの生活に馴染んでいくことになります。


●海外経験、農業研修を経て「皆農塾でやっていく!」と決心


田んぼでお米作りも行っている皆農塾では、合鴨農法を実践。引退した鳥は農場内で放し飼いにされています

皆農塾では、国内からの農業研修生だけでなく、海外からの農業体験者も受け入れ、共同生活を実施。国籍を超えた人との繋がりも生まれる場所で(1)



 一年前、恵子さんより農場長を任せられることになった勝さん。
「農業をやっていこう」
という決心は、いつ芽生えたのでしょうか。

「実は過去に、皆農塾を離れた時期があるんです」と、語る勝さん。通信制高校を卒業した19歳の時、ちょうど自分の世界の狭さを感じ始めていた頃に、カナダの牧場へ2ヶ月間の滞在へ。帰国後は山梨に農業研修へ行く機会を作りました。

「本当は、山梨の農業生産法人でアルバイトを経験した際、正社員として働く道も考えて研修を申し込んだんです。でもその時に、今まで漠然としてた気持ちがハッキリした!他の場所へ行ってみて、『やっぱり、自分の居場所は皆農塾なんだ!』と気がつきました」。

それ以来皆農塾での農作業だけでなく、週1回、地元の有機農家の先輩の所に実習へ通いながら「ここでやっていく」と決めた想いを胸に、真剣に農業を学んでいます。


※「皆農塾で、一生農業をやっていく」と決めた21歳の勝さん。海外から来る農業体験者との交流の中で、「自分らしい生き方」を模索しながら辿り着いた、百姓として・一人の人間としての理想の姿は・・・。


※皆農塾のホームページは こちら

文:野菜ソムリエ 神林春美
写真提供:皆農塾(1) 撮影:神林春美(その他)