野菜人・果物人
野菜人・果物人第93回後編 鈴木郁馬さん(高知県指導農業士)

第93回後編 鈴木郁馬さん(高知県指導農業士)

成功を信じあきらめない!魂を込めて作り上げたサツマイモ誕生秘話

●農業こそが自分の歩む道。脱サラし、高知に単身移住


鈴木郁馬さん

ご職業 高知県指導農業士
座右の銘 継続は力なり

 高知県指導農業士として農業の普及に力を注ぐ鈴木郁馬さんは、神奈川県でリゾート開発の会社に勤めるサラリーマンでした。

 彼が農業に初めて触れたのは、海外青年協力隊を目指し、八ヶ岳で派遣研修を受けた26歳の時。人間の原動力である「食」を支える農業のスケールの大きさに魅せられたのだそうです。


魂を込めて作っているミエルスイート

「農業には無駄な仕事が一つもありません。台風でだめになったとしても、その経験が翌年の自分のためになる。そして工夫をすれば『作って売る』まで自己完結ができます。やればやるだけ結果を出せるのが農業です」

 1年間の研修後、バイクで全国各地を回った鈴木さんは、自分の目の届く範囲で収益をあげられる施設園芸に魅力を感じ、その技術力が高い高知県に単身移住をしました。

「地元の長岡には、親子以上につながることのできる受け皿がありました」

 鈴木さんが魂を込めて栽培しているサツマイモ「ミエルスイート」を共に作り上げた竹村浩繁さんも、彼の支えとなってくれた一人です。



●悔しさをばねに、魂を込めて作り上げた「ミエルスイート」


ミエルスイートはハチミツのような優しい甘さ。じっくり焼くと鮮やかなオレンジ色になります

青々とした初夏のミエルスイートの畑

 品種改良や栽培・保管に至るまで研究し、商標登録をしたミエルスイート。ミエルはフランス語の「ハチミツ」のこと。その名の通りハチミツのようなしっとり感とやさしい甘さが魅力のこのサツマイモは、リピーターを徐々に増やし、一年を通して買いたいというファンも多いそうです。

 鈴木さんは「誰にも作れないもの」を目指し、このミエルスイートにたどり着いたといいます。

「高知では夏に収穫する早掘りの芋が主流ですが、6年前、焼酎用に秋作の芋を作ろうと、33名の生産者を集めたことがありました」

 まとめ役である鈴木さんは、規定量以上の芋が集まったときには、他の人の芋を優先させて出荷しました。その出荷が終わったあと、真っ暗な中、川で自分の芋を洗い、泣く泣く二束三文で別の売り先に出すこともあったそうです。

 この経験をばねに「誰にも作れない秋の芋を作ろう」と決意した鈴木さん。試行錯誤の末につくりあげた味を高く評価し、その地道な努力に共感してくれる取引先にもめぐり合うことができました。売ってくれる人たちは「魂を込めて作っている」という鈴木さんの思いも、生活者に伝えてくれるそうです。



●ゼロからでも農業で自立できる!農業を目指す後輩たちへのエール


地元の小学校で自分の就農経験を語る鈴木さん

東京・大阪で毎年開催している「こうちアグリスクール」での講演


 ゼロから農業を始め、オンリーワンのサツマイモ「ミエルスイート」を作った鈴木さん。彼は昨年、念願の自宅と作業場を建てることができました。

「農家という基盤がなくても、農業を極め、農業で自立することができます。自分の成果を見せることが、農業を目指す人の役に立つと思うのです」

 彼は就農を目指す人に向けて開講される「こうちアグリスクール」で講演をしたり、自宅に研修生を受け入れるなど、新しい農業者の育成にも情熱を注いでいます。

「食事すらままならなかった時も『自分の力で生きている』という実感と『この状態から抜け出せないはずはない』という自信がありました。大切なのは、あきらめず継続することです。そして夢を忘れず10年後の自分の姿を思い描き続けることです」

 就農して16年、43歳になった鈴木さんに、今から10年後にかなえたい夢は何かうかがうと「本気で農業をしたい人の役に立つ、たとえば塾のようなものをつくりたい」と答えてくれました。自分の姿で道を示す鈴木さん。彼の背中は、夢を描く多くの後輩たちに勇気を与え続けることでしょう。







※※鈴木郁馬さんのブログ『長岡野地日記』は こちら

文:野菜ソムリエ 霜村春菜
写真提供:鈴木郁馬さん
写真提供:高知県環境農業推進課(アグリスクール)
撮影:霜村春菜(ミエルスイート)