野菜人・果物人
野菜人・果物人第93回前編 鈴木郁馬さん(高知県指導農業士)

第93回前編 鈴木郁馬さん(高知県指導農業士)

脱サラ農業で自立!「オンリーワンのサツマイモ」を作った新規就農者

●野菜はパートナー。命のつながりを感じる農業に魅せられて


鈴木郁馬さん

ご職業 高知県指導農業士
座右の銘 継続は力なり

 高知県南国市でシシトウや「ミエルスイート」というサツマイモを生産している鈴木郁馬さん。彼は高知県知事から農業振興のリーダーとして任命されている指導農業士です。

 地元にある神社の氏子総代を務め、古い農機具にも詳しい様子は、先祖代々続く農家のようにも見えますが、実は新規就農者。


ハチミツのような甘さのミエルスイート「初めて食べる芋」と多くの人がびっくりするそう

 大地に根を張った仕事がしたいと考え、27歳の時にサラリーマンをやめて、神奈川から単身高知に移住しました。

「私はシシトウやミエルスイートを、共に仕事をする大切なパートナーと思っています。彼らのおかげで自分は糧を得て、命をながらえている。そして彼らは、食べてくれる人の命の元にもなっています。命のつながり、それが農業だと私は思います」

 命を育む仕事を「365日24時間、丁寧に一つ一つ積み重ねてきた」という鈴木さん。そんな彼の情熱的な人柄を慕い、農業を志す多くの人が彼を目標としています。



●生活者とのコミュニケーションが成功への原動力に



ミエルスイート試食会。率直な意見は今後の改良につながる大切なもの

 「命のつながりを違う角度からいえば、『食べてくれた人たちの元気が、自分たちの元気にもつながる』ということ」

そう語る鈴木さんは、店頭での試食販売やお祭りなどのイベントに参加して、美味しさや野菜に込めた思いを伝えながら、自分の目で生活者の反応を確かめています。

 特に好評なのは、品種選定から栽培・管理方法を、徹底的に仲間と研究してたどりついた「ミエルスイート」。ハチミツのような優しい甘さと、温もりを感じさせるオレンジ色が特徴のサツマイモです。

「率直な意見が何よりありがたい。『いままで食べたことがない』とびっくりされるのもうれしいし、厳しい意見も、次の改良点につながります」

 ミエルスイートは挫折と地道な努力の積み重ねから生まれたと鈴木さんはいいます。あきらめなかった原動力の一つに、食べてくれた人の笑顔があったことは言うまでもありません。

 現在、鈴木さんのミエルスイートは、口コミで人気となり、収穫風景や焼き芋の映像がビール会社のコマーシャルに使われたり、しっとりとした食感と鮮やかなオレンジ色が和菓子やプリンの材料によいと東京の菓子職人からも注目を集めているそうです。



●文化や技術を含めた「農業」を次世代に継承する「通過点」となりたい


地元の小学5年生に田植えの説明を行う鈴木さん

ししとうの花を取り除く鈴木さん愛用の「そぞり」。作る人が減っている農機具のひとつです

 農業の大切さを多くの人に伝えたいと考えている鈴木さんは、地元で立ち上げた青壮年部の仲間とともに、12年前から小学生向けの農業体験を行っています。

 1・2年生はサツマイモ、5年生は田植えをするのですが、少し変わっていることが一つ。それは、昔の道具を使って農作業をしてもらうこと。子供たちは初めて見る道具に興味津々、大喜びするのだそうです。

「道具は使い方も含めて伝承しないと途絶えてしまいます。それに、昔の道具にしかできない利点もたくさんあるのです。
 例えばミエルスイートの保管に使う『こも(マコモやワラでつくったむしろ)』は昔ながらの手編みだからこそ、おいしさに関わる絶妙な温度や湿度を保ってくれます」

 彼が農業体験で伝えたいのは、昔ながらの文化や技術を含めた農業の大切さ。それが、収穫した作物の味と共に彼らの記憶に残ることを願う鈴木さん。「初めて教えた子供たちがもうすぐ成人する」と楽しそうに話す姿が、とても印象的でした。





※<後編>では、鈴木さんが仲間と作り上げたサツマイモ「ミエルスイート」に込める思いをお伝えします。



※鈴木郁馬さんのブログ『長岡野地日記』は こちら

文:野菜ソムリエ 霜村春菜
写真提供:鈴木郁馬さん
撮影:霜村春菜(ミエルスイート・ミエルスイート試食風景)