野菜人・果物人
野菜人・果物人第90回後編 嶋村茂治さん(株式会社みらい代表取締役)

第90回後編 嶋村茂治さん(株式会社みらい代表取締役)

失敗を恐れない科学者魂とチャレンジ精神を胸に、植物工場の進化をいざなう

●経験と知識と科学の力で野菜に対峙する


嶋村茂治さん(1)

ご職業 株式会社みらい代表取締役
座右の銘 チャレンジ精神が道を拓く

「来月までにもっと肉厚のレタスを作って」。

 植物工場を研究している害虫駆除メーカーに研究者として就職して間もない頃、野菜を提供していた企業からの依頼でした。通常なら品種改良を重ねて何年もかかる課題。



からし水菜。ピリっと辛みのある水菜で、炒め物、味噌汁の具に。一般栽培では葉が縮れて虫がつきやすい野菜のため、虫の付かない工場栽培に向いた野菜として人気。(2)

 その日から工場内に寝泊まりし、養液から光の強さ、温度など、あらゆる条件を微調整しては植物の状態を一刻一刻観察するという毎日。そして、不可能と思われた要求を実現し、肉厚レタスを届けることができました。

 この成功体験が自信へとつながり、「植物工場に関してなら、今の自分の技術は最高レベルにある」と確信。わずかな資金で会社を立ち上げ、植物工場のコンサルタントの仕事で実績を重ね、2006年には念願であったご自身の植物工場と販売店舗を開業しました。



●植物工場の研究チームのリーダーとして。



レッドロメイン(写真上)&レッドロシアンケール(写真下)。ベビーリーフの素材として栽培。栄養価と彩りをサラダに。(3)

 1980年代、日本で最初の植物工場が建設され、近未来の栽培法として注目を集めたものの、当時は設備費や電気代が膨らみ収量も安定しないことから撤退が相次ぎ、普及までには至りませんでした。

 しかし、嶋村さんを筆頭に栽培ノウハウの研究や、エネルギーを効率的に利用する技術開発が進み、現在では未来の成長産業として農林水産省や経済産業省など国もバックアップ。この春から農林水産省が千葉大学の環境健康フィールド科学センターに植物工場の研究・研修拠点を設置、8つの研究施設(コンソーシアム)を使ってトマトやレタスの栽培研究が本格的に始まります。

 嶋村さんはそのひとつ、「低コスト未来型人口光利用植物工場」コンソーシアムのリーダー企業として参加、他の参加企業と伴に、千葉大学と連携してレタスの栽培から加工販売を通し、その商品性を実証します。

「衛生面や価格においてはカット野菜レベルを想定しています。同じ価格なら、丸ごと使える、洗わないから栄養価もそのままなど、カット野菜を超える利便性をアピールできればと考えています」。



●植物工場という科学のバトンをつなげたい


工場併設の店舗「グリーンフレーバー」にて(4)

 かつて、植物工場という夢物語にチャレンジし、失敗を重ねてきた先人たちの歴史が現在の植物工場の研究に繋がっている。「だから、自分も植物工場という科学のバトンをつなぎたい」と嶋村さんは語ります。

「走った距離と時間、走り方は科学者としての自分のオリジナリティ。例え失敗したとしてもそこには確かな満足があります。ただ、一緒に走る仲間たちに敬意を払いつつもその区間では一番でありたいですね」。

 幼い頃から偉人伝を読みあさったという嶋村さんが今でも大切に持っているのがエジソンの伝記。

「失敗を重ねても、どうして失敗したのかが解ったのだからいいんだという考え方に参った」という嶋村さん。昔の科学者のチャレンジ精神を見習いたいと語ります。



●視線は海外へ。世界の人々のために


冬場の雇用対策として植物工場を推進している青森県弘前市が主催の植物工場セミナーにて(5)

企業主催のセミナーにて講演する嶋村さん(6)

 海外、中でも中国、韓国などアジア諸国と砂漠の広がる中東地域からも植物工場の問い合わせが増えてきているといいます。嶋村さんの視線も今、海外に向いています。

 設備のコスト削減やエネルギーの節約など課題は多いものの、「特に人口が増えている国に植物工場を作りたいですね。そして、その国内で完結した生産と消費をしてもらいたい」と、その地域の自然と人のためになる植物工場であることが前提です。

 嶋村さんに10年後の自分を想像してもらったところ、

「相変わらず、世界中を走り回っているんじゃないかな。でも先では自分の楽しみとして、薬草の植物工場での栽培を研究してみたい」。

一方、「栽培技術を持つ人材育成も急務です」と後進の育成に意欲的です。嶋村さんの「社会貢献のための植物工場」という夢は、科学のバトンを世界各国につなぎながら受け継がれ、自然や人々の暮らしに貢献していくことでしょう。





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文:ジュニア野菜ソムリエ 渡辺美穂
撮影:渡辺美穂(1)・(4)
写真提供:嶋村茂治さん(2)・(3)・(5)・(6)