野菜人・果物人
野菜人・果物人第89回後編 高橋保廣さん(山形新庄大豆畑トラスト 代表)

第89回後編 高橋保廣さん(山形新庄大豆畑トラスト 代表)

在来種・自然環境を守ることへも繋がった、新庄のトラスト活動

●第二弾の「トラスト運動」では、幻のお米「さわのはな」を栽培


「多くの人に作ったものを直接美味しいと言ってもらえる、自分達は贅沢な百姓だ」と話す、高橋保廣さん(1)

ご職業 農家 山形県新庄市「ネットワーク農縁」
「山形新庄大豆畑トラスト」代表
座右の銘 みんなで楽しく!

 平成9年、山形県新庄市で始まった「大豆畑トラスト」。「ネットワーク農縁」代表・高橋さんを中心に、農薬や化学肥料を使わない農業に共感する15名の農家が始めたその運動は、その後「新庄に続け!」と、全国へ広がっていきます。

 わずか3年後の平成11年には、初めての全国大会を新庄市で開催。主食(米・麦・大豆)の自給を目指す農業グループを中心に、全国から志を一つにトラスト発祥の地・新庄に集結しました。

 そしてその翌年には、大豆に続き、第二の遺伝子組み換えに反対する運動として、「新庄水田トラスト」もスタート。昭和30年代頃まで地元では盛んに作られていた在来種「さわのはな」を栽培します。


「この山の中の田んぼは、オレの宝物」と言う、お米「さわのはな」を栽培する場所にて(2)

「『さわのはな』は、いつからか『幻の米』と言われるようになったお米。冷めても美味しく食味の良い品種だけど、胚芽の部分が多いことで精米の歩留まりが悪く、さらに等級検査でも等級が上がらず一等米にはなりづらかった。流通には不向きで衰退していく中、自家用米として細々と作り続けられた品種だったんだ。でもな、『さわのはな』はこの地域の気候・風土・土を知り尽くしたDNAを持ったお米。農薬や化学肥料の力を借りずに栽培できる在来種のお米を、水田トラストで皆さんに食べてもらいたかった」
と、高橋さんは語ります。



●在来種を守ること、自然環境を守ることも、大切な心意気


新庄の田舎の味を楽しんでもらう場ともなる、収穫祭。芋煮汁には、地元に伝わる里芋の伝統種「甚五右ヱ門芋」を使用(3)

 その後、この「さわのはな」は、在来種を守る団体や環境を支援する団体からも注目され、多くの場で紹介されるお米に。
 高橋さんの仲間であり、トラストに参加する農家・佐藤恵一さんが話してくれました。

「我が家は、1961年より親子二代にわたり、『さわのはな』を作り続ける農家。父の世代の人達は、「いろんな品種の米を作ってきたが、この米が一番だ!」と異口同音に言うほどで、農家の舌で選ばれたベストワンの米です」

 佐藤さんは昨年、この「さわのはな」や「ささにしき」の原種とも言われ、かつて東北地方で広く栽培されていた品種「亀の尾」の栽培にも挑戦。地域に残る伝統種を受け継ぐ姿勢もまた、新庄トラストに参加する農家さんの心意気の表れです。

 そして、自然環境が壊されていくのを憂うことも、トラスト農家さんの共通の気持ちとなっています。 メンバーの間でも度々、「作っている食べ物は安全でも、周辺の環境は安全なのか?」が話し合われる中、平成12年に「新庄最上環境会議」を設立。

「どんな環境で農業を行っているのかを、自ら知ることは百姓として当然」と言い切り、田畑に流れ込む河川の水質調査の他、希望者は自宅の井戸水・地下水の調査を継続しています。



●都会に広がる、「農縁の人が作ったものが食べたい」の声


代々木公園で開催される「アースデイマーケット」にはネットワーク農縁も出店。東京事務局の阿部さんも農産物の販売をしながら、高橋さんのトラスト運動を広める役割を担っています(4)

草取りツアーでは、東京の会員は泊まりがけで新庄へ。畑で一緒に汗を流し、新庄の食の恵みも堪能します(5)

 現在では、「ネットワーク農縁」の販売する大豆やお米をメニューに使う、オーガニックカフェも都内に多数。高橋さんを始めとする農家の皆さんも、カフェのイベントに招かれては、日頃の農業への想いを語り伝えています。中には、そのイベントがきっかけで、直接田や畑を見に新庄へ足を運ぶ若者も。

 そして、毎年冬に都内で開催する「収穫祭」は、トラスト会員を招待してのまさに大交流会。新庄から「農縁」の農家が全員東京へ駆けつけ、今年の収穫を報告。新米の食べ比べの他、「田舎の味がじっくり出てるべ」と、山形名物の芋煮汁に漬け物、山菜料理、甘酒にお汁粉、干し柿などをふるまいます。

 また、東京事務局の阿部文子さんも、「大切なのは、地道に長く続けていくこと」と話され、東京・代々木公園で開催される朝市では、「ネットワーク農縁」の農産物を販売しながらトラスト運動を広めています。

 10年間にわたり、ネットワーク農縁のお米を給食に使用している神奈川県・川崎市にある保育園には、高橋さん達が自ら出向く餅つき大会も毎年の恒例行事に。「自分らの米を食べてもらっている、そのお礼だ」と話します。
 保育園に着くなり子供達からは、「お米のおじちゃんだー!」と飛び寄られるそうで、「かぁわいんだなぁ」と。ご自身も二人のお孫さんのいる高橋さん。

「家族に食べさせたいと思うと、自然と安全なものになっていくもんだよ...」

としみじみ話すお顔には、優しいしわがにじまれています。





山形新庄 大豆畑トラスト ホームページはこちら

文:野菜ソムリエ 神林春美
撮影:神林春美(1)--(4) 写真提供:遠藤敏信さん(5)
取材協力:山形新庄大豆トラスト、山形新庄水田トラスト、ネットワーク農縁事務局