野菜人・果物人
野菜人・果物人第88回前編 上田悦男さん(上田ファーム オーナー)

第88回前編 上田悦男さん(上田ファーム オーナー)

「ほんまもん」にこだわって、果敢に柔軟に農業に取り組む仕事人

●野菜は人間の生命を維持するための神聖なもの


上田悦男さん

ご職業 『上田ファーム』オーナー・松原市農業委員
座右の銘 夢に勇気を

「野菜には人間に必要な栄養がたくさん含まれてる。人間の生命を維持するための大切なもんやと思う。そんな神聖なものを作ってるっていう使命感を持って、日々農作業してます」。


上田ファームと言えば糖度の高いトマト! お父様の時代からの人気商品

最近栽培を始めた「プチヴェール」。新しい野菜にもどんどんチャレンジ

 親しみのある大阪弁で熱く語るのは、大阪府松原市の専業農家、上田悦男さん。息子さん2人と共に、トマトを中心に、小松菜・ほうれん草・水菜・キャベツなどの葉物野菜とイチゴを主にハウス栽培で育てています。

 害虫の少ない秋冬は無農薬、夏も必要最低限の農薬のみで、有機肥料にこだわって栽培している上田さんの野菜は、1度口にするとその野菜本来の濃い味・甘みに驚きます。

「ほんまもんを作りたい」

 上田さんの情熱が伝わってくる野菜たちは、出荷先も上田さんの農業への想いに賛同し、ほんまもんを求めるイタリアンレストランだったり、割烹料理の店だったり、自然食品店だったり。



●手塩にかけた野菜は気に入ってもらえるところへ嫁がせたい


「産直販売はお客様の反応がダイレクトにわかるので楽しいです」

 そして、上田さんがとりわけ大切にしているのは、産直所やマルシェでの直接販売。

「直接コンタクトをとることで、お客さんに作り手の想いやおいしい食べ方なんかの、その野菜の背景をわかってもらえるし、『おいしかったよ』って言ってもらえるともっと頑張らなあかんなって思えるんですよ」。

 先日行われた松原市の食のイベント『まつばらマルシェ』では、市の協力のもと、上田さんが中心となって立ち上げた松原産の大阪エコ農産物(※1)ブランド『まったら愛っ娘』のブースの、運営から出荷・販売まで行いました。


『まつばらマルシェ』の"まったら愛っ娘"ブース

上田ファームの定番野菜、小松菜。『まつばらマルシェ』にも登場

農作業は"まったら愛っ娘"ロゴ入りの作業着を着て

 マルシェ開催日に合わせ、通常の出荷量にプラスして、まとまった一定量の野菜を収穫するために、開催日2か月前からてんてこまいだった上田さん。
 苦労したかいあって、当日は水菜・小松菜・蕪・ほうれん草をはじめ多くの野菜が店頭に並び、通常の産直販売の3倍以上の売上だったそうです。
 特に良く売れたのは大根・白菜・キャベツで、松原市だけでなく近隣の市からも多くの人が訪れ、評判も上々だったとか。

「"大阪エコ農産物"や"まったら愛っ娘"を知らないお客様も、農薬や化学肥料を控えた野菜である旨を説明すると、喜んで買ってくれて、安心・安全への関心は思った以上に高いことを実感しました。今回の『まつばらマルシェ』が市内外へのPRの第1歩となったわけやけど、もっとPRしていく必要性を感じましたね。今後販路を開拓したり、賛同農家を増やして収穫量をアップさせたり、やらなあかんことはたくさんありますが、今回のお客様の反応で手応えを感じたので、今まで以上に頑張りますよ」。

 ちなみに "まったら"とは地元の言葉で"松原"の意。「手塩にかけた野菜はまさに愛娘。気に入ってもらえるところへ嫁がせたい。逆に粗末に扱われるのが一番悲しい」という親心が込められたネーミングなのです。ブランドのロゴやロゴ入り農作業着も、上田さん率いるまったら愛っ娘メンバーで考えたものだとか。

 かつては農業で栄えた松原市で、現在では高齢化が進み、専業農家が減っているなか、このように熱い使命感を持って攻めの姿勢で農業に取り組み、近隣農家のリーダー的存在である上田さん。その原動力はどこから?



●実家を出て様々な経験を積んだからこそわかった「親父のすごさ」


冬出荷用のイチゴ。ビニールを二重にかけ、温度管理をしています

イチゴハウスのミツバチの箱。ミツバチが花粉を運び、受粉

左半分は収穫後に生えた雑草。農薬は使わず全て手で除去します

 代々続く農家の長男として生まれた上田さん、10代から20代にかけては「農業だけは絶対にしたくなかった」のだとか。「若いころはけっこうやんちゃやってん」。

 農業以外の世界を覗いてみたくて、サラリーマンをやったり、海外放浪の旅に出たり、飲食店で修業をしたり、スキーが大好きだったことからカナダでペンション経営を試みたり。

 30歳を過ぎて実家に戻ったのは「親父の体調が悪くなって、俺がせなしゃあないなあ」という状況になったから。ところが、そうして農業に携わるうちに、それまで気付かなかったことが見えてきたといいます。

  「親父のトマトがすごく評判がよくて。『20年来ここのトマトしか食べてない』という人もいて、そんな野菜を作る親父ってすごいなと」。

 時を同じくして娘さんに少しアレルギーがあることが判明。「それで安全でおいしい野菜を作っていくのが俺の使命やなって」。そう腹をくくって以降、野菜ブランドを立ち上げたり、行政に様々な提案をしたり、慣例やしがらみにとらわれず、果敢に柔軟に農業と向き合っている上田さん。

 その原動力となっているのは、高校球児時代に培った根性と体力、そしてやんちゃだった20代という"肥やし"があるからなのでしょう。



(※1)大阪エコ農産物とは、大阪府内で生産された農産物のうち、農薬や化学肥料の使用量が大阪府の定める基準以下になっているもので、播種日や収穫量などの生産計画とともに大阪府庁に届出を行い認証されたもの。


※<後編>では、地産地消を推進し、地元農業の活性化を目指す上田さんが、その一環としてリーダーシップをとって推し進めている地元産野菜の給食への導入、食育などへの取り組みを紹介します。


『上田ファーム』 ホームページはこちら

文・撮影:ジュニア野菜ソムリエ 尾崎美鈴
取材協力・写真提供:松原市経済振興課(マルシェ写真)