野菜人・果物人
野菜人・果物人第87回前編 唐澤圭輔さん(K'sファーム代表)

第87回前編 唐澤圭輔さん(K'sファーム代表)

松戸市特産「矢切ネギ」の若き伝道師

●江戸川沿いに広がる肥沃な農業地帯・矢切


K'sファーム代表 唐澤圭輔さん

ご職業 農家(K'sファーム代表)
座右の銘 できないことはしない、できることをする

 東京都から国道6号線を通り江戸川を渡ると、右手に100haの広大な畑作地域があります。ここが今回紹介するK'sファーム代表・唐澤圭輔さんが農業を営む野菜の一大産地、千葉県松戸市矢切地区です。

「矢切の渡し」を背に江戸川の土手に立つと矢切を一望できました。ネギの葉の緑色が一面に広がります。

「江戸川流域の肥沃な土壌は野菜栽培に最適な土地です。特に矢切のネギは、料亭の食事や贈答品として用いられる高級食材として、高い評価を得ています」


矢切の畑作地帯。猛暑の影響で今年はネギの作付が少なめだそうです

畑の矢切ネギ。畝の土中に隠れているのが、私たちの食べる白い部分

 そう話す唐澤さん自身もネギを中心に栽培する生産者です。現在31歳の唐澤さんはサラリーマン家庭から就農した、農業4年目の若手でありながら、歴史ある矢切ネギの出荷組合に所属し、地域の将来を担う人材として期待されています。

 唐澤さんに案内され圃場へ向かうと、収穫を間近に控えた青々としたネギの葉が整然と並んでいました。唐澤さんが一本を抜き取り、皮を剥くとネギの芳潤な香りが立ち込めます。

「ネギは収穫適期には香りが強く出るんです。出荷基準の1.5〜2cmの太さも満たしているし、明日からでも出荷できそうだね」

 何本かネギを抜くと、唐澤さんは満面の笑みで話しました。とれたてのネギは皮をつけてそのまま焼くと絶品とのこと。もちろん出荷された矢切ネギも美味。大変柔らかく、甘みもよく出て、今の時期の鍋料理にぴったりです。



●千葉県松戸市特産「矢切ネギ」とは


上が収穫適期のネギ。「首の緑色が白く抜けたものが美味しい」と唐澤さん

段ボールなどの梱包用資材を統一し、ブランドとしての存在感をアピール

 ネギと一口に言っても、じつは地域によってイメージするものが違います。たとえば関東では地中に埋まった白い部分を食べる「根深ネギ」、関西では青ネギと呼ばれ地上部を食べる「分げつネギ」を連想します。唐澤さんに尋ねると矢切ネギは前者だと教えてくれました。

「矢切ネギとは、矢切でつくられた根深ネギの総称です。2008年特許庁の『地域団体登録商標』を取り、名実ともに地域ブランド野菜としての地位を確立しています」

 現在は東京都大田市場への出荷が中心で、地元の市場に出荷されたものも、多くが東京の市場を経由し全国へ転送されています。買い手である料理店などからは、矢切ネギ指名での注文取引もおこなわれているそうです。



●地域に愛されるブランドに育てる


太すぎず、細すぎず。1.5〜2cmの太さが市場での評価が高いネギです

 引く手は数多、市場でも評価が高い矢切ネギですが、唐澤さんは課題も多いと話します。

「市場での引きが強いので、地元の人たちは矢切ネギの名前は知っていても、実際に口にする機会がありません。地元の生活者を飛び越えて他所で消費されているのです。
 現在は市場出荷だけで困ることはありませんが、ネギ含めた野菜全体の価格が不安定な今、これからは地域との交流も欠かせないと考えています。ブランド名だけではなく味も浸透させたいです」

 しかしながら地域の生産者の足並みを揃えることは難しく、全体でどのようにブランドを構築していくかは未だ課題が多いそうです。そんな中で、唐澤さんはまず自らが動き、新しい試みに取り組んでいます。

「ブランド化を地域内で提言すると共に自分の商品PRにも力を入れています。たとえば泥つきネギのような商品の提案、直売所やスーパーへの販路の増加、イベントでのネギを使った料理の提供などをおこないました。
 若い人たちの中には、私と同じく地域の名産品を地域で使ってもらいたいと望む人がいます。私の試みがきっかけとなり、いずれ生産者一丸となって取り組んで、地域の人たちに愛されるブランドにしていきたいです」



※<後編>では、唐澤さんが新規就農にあたり実践した耕作放棄地解消にかける想いや、矢切の農業を地域に広めるための活動を紹介します。





文・撮影:ジュニア野菜ソムリエ 橋本哲弥