野菜人・果物人
野菜人・果物人第86回前編 石井裕子さん・石井久美子さん(いしい農園経営/カフェぶ楽り店長)

第86回前編 石井裕子さん・石井久美子さん(いしい農園経営/カフェぶ楽り店長)

伝統ある農家に新風を吹き込む2代に渡るお嫁さん

●農園カフェでつながる家族のきずな


お店を前に、裕子さん(右)と久美子さん(左)

ご職業 いしい農園経営・生産農家(石井裕子さん)
ガルテンカフェぶ楽り店長(石井久美子さん)
座右の銘 本気でやろうと決意した不屈の心は
希望へ変わる(石井裕子さん)
日々を感謝の気持ちで生きる(石井久美子さん)

季節ごとに香る花々と草木に囲まれた庭に佇むオープンテラスのカフェ「ぶ楽り」。市川市内で14代続く「いしい農園」が運営するこの店では、採れたての新鮮野菜をふんだんに使ったメニューが自慢。

「ぶ楽り」のシェフ兼マスターとして一人で店を切り盛りしているのは、14年前、石井家の跡取りである一平さんのもとに嫁いできたお嫁さんの久美子さん。そして、久美子さんを見込んで店をまかせ、「接客からジャガイモの皮のむき方まで教えた」のが、一平さんの母であり、久美子さんの義母にあたる裕子さん。いしい農園の14代目当主・孝樹さんの奥さんでもあります。


「ぶ楽り」自慢の草木の生い茂るガーデン

蓼科の農園で収穫された野菜いろいろ

「ぶ楽り」で使う野菜は、一平さんが隣接するハウスで作る低農薬で育てたトマトやレタス。そして、店が軌道にのってきた10年ほど前に蓼科に移り住み高原野菜や世界中の珍しいトマトを栽培している裕子さん夫妻から届けられたもの。

「私は美味しい素材を作る側。活かすも殺すも久美ちゃん次第よ」

と、元デザイナーの感性を活かした切り口で野菜作りに取り組む義母裕子さんと、義母を尊敬し、教え通りねばり強くカフェの運営に取り組む久美子さん。
 この、石井家の2代に渡るお嫁さんが、代々続く農園に新風を吹き込みつつ、都市農家ならではの新しい取り組みを担っています。



●デザイナーの感性を活かした野菜作り


石井裕子・孝樹夫妻。蓼科のいしい農園をバックに

蓼科の自宅前にて箱詰め作業をする裕子夫妻

色とりどりのトマトを箱詰めにして「世界のトマトの宝石箱」

 その昔、稲作の他、花卉農家として園芸店を経営している石井家に嫁いだ裕子さんは、主力商品だった洋ランの生産を手伝いながら実家の切り花店の経営にも携わり、フラワーショップを3店舗も開店した経営手腕の持ち主です。

 バブルもはじけ、「これからは食べられる野菜作りを」という当主・孝樹さんの方針のもと、市川の農園は長男である一平さんにまかせ、裕子さん夫婦は洋ランの山あげに毎年訪れていた蓼科で、トマトを中心とした高原野菜の栽培をスタート。5月から10月にかけては蓼科で暮らすことになりました。

 裕子さんは持ち前の行動力とデザイナーの感性で、世界じゅうの珍しいトマトの種子を取り寄せ栽培。色とりどりの美しいトマトをボックスに詰め、「世界のトマトの宝石箱」と命名してギフト用に売り出したところ大変な反響を得ました。口コミで人気は広がり、ネット販売のみならず、ホテルやレストランからも注文を受け得意先を増やしています。

「私にとっては、布が野菜に変わっただけ。色や味の組み合わせを考えて栽培から売り方まで、デザインするのは同じよ」

 また、「珍しい野菜を栽培したら、まず、自分で調理して食べ方を工夫してみる」ために、専用のキッチンを新設。シェフらを招き、盛りつけやレシピのアイデアを披露、その道のプロからも先生と呼ばれるほどに。「料理人より一歩二歩先に行くのが野菜作りのプロ」と努力を惜しみません。



●お嫁さんとしてではなく、一農業人として


華やかで社交的な裕子さん

「ぶ楽り」のシェフでありマスターの久美子さん

 農園カフェと直売所を併設している現在のいしい農園の姿は、裕子さんが蓼科で野菜作りを始めるにあたり参加した、農村婦人ヨーロッパ研修の旅でホームステイをしたドイツとスイスの農家をお手本としたものでした。そこで見たものは、「家長を中心に家族が協力しあって、農業そのものを楽しんでいる」姿。古いもの、伝統を大切に生きる暮らし方そのものに憧れました。

「ヨーロッパのファームの日本版をぜひ作りたいと思いました」

 帰国後、当主・孝樹さんと農園カフェの開業を考えていたところ、裕子さんが目をつけたのが、当時、ドイツの有機栽培農家へ研修に訪れていた長男の一平さんのお嫁さん候補であった久美子さんでした。

 家族経営が主体の農家の嫁は誰でもいいというわけにいかないと裕子さん。「14代続くいしい農園の伝統の重さを自分自身で感じてほしい」と結婚前に久美子さんにカフェをまかせてみることにしたそうです。  自ら、異業種から農家に嫁いできた嫁として、その立場の重さは充分承知している裕子さん。本来、非農家出身の人にとって農業は、土地ない金ない技術(経験)ない、と、参入しにくい職業です。

「でも、本気で農業をやりたいと思っている人には就職や結婚もひっくるめて、 縁結びのようなことをしてあげたい」

と語る裕子さん。
 久美子さんをお嫁さんとしてではなく、仕事人としてどこまで本気かを確かめたかったそうです。



※<後編>では、石井家に嫁いだ久美子さんのがんばりと、それを見守る裕子さん。お二人の農業に対する共通の想いを紹介します。

ガルテンカフェぶ楽りホームページは こちら



文・撮影:ジュニア野菜ソムリエ 渡辺美穂
写真提供:石井裕子さん
(蓼科の農園、箱詰め作業、野菜、世界のトマトの宝石箱)