野菜人・果物人
野菜人・果物人第80回後編 大竹 道茂さん(江戸東京・伝統野菜研究会代表)

第80回後編 大竹 道茂さん(江戸東京・伝統野菜研究会代表)

『江戸東京野菜』という種の多様性を後世に残し続けたい!

●寺子屋からの発信


大竹道茂さん

ご職業 江戸東京・伝統野菜研究会代表
座右の銘 一粒萬倍

 江戸東京・伝統野菜研究会の代表としてその復活と普及活動を行っている大竹道茂さんは学校からの情報発信にも積極的です。

 昨年は墨田区東向島にある第一寺島小学校で、この地区に伝わる寺島ナスの栽培を提案。ナス農家の星野直治さんの協力を得て、創立130周年の記念行事にしたのだそうです。


ナス農家の星野直治さんに寺島ナスの苗作りの依頼

「寺島ナスは小ぶりのほうが味が良いので、星野さんは早くとるんですよと教えていましたが、子供たちは友達よりも大きく育てて自慢したがっていました。そしてナス嫌いの子も食べてみようと頑張ったり、子供たちにとってとても楽しい経験になったようです。江戸時代みたいに、寺子屋から知識が広まるというのも江戸東京野菜らしいでしょう?」

 とても楽しそうに子供たちのことを話す大竹さん。この寺島ナスの復活は「ナス本来の味がする」と料理人からも注目され、その期待に応えてくれる生産者が増えるなど新たな広がりを見せています。



●東京の風物詩に


練馬ダイコンの収穫

 学校での取り組みだけでなく、老若男女が楽しめるイベントを思いつくのも大竹さんのすばらしい才能のひとつです。

 大竹さんが考えた「練馬大根引っこ抜き競技大会」では、70〜100cmにもなる練馬大根を5分間で何本抜くことができるかを競います。でも、ただ単に抜くだけではないのが大竹流。日本綱引連盟の理事をなさっていた大竹さんは、なんと! 綱引の公式審判を呼んで、その掛け声とともに練馬大根を引き抜くことを思いつきました。

 気合いの入った掛け声、そして参加した屈強な自衛隊員にも手ごわい練馬大根! 大竹さんの話を聞くだけでも、とても楽しい様子が想像されます。


「引っこ抜いた練馬大根は翌日、練馬区の小中学校で給食になります。私はこの大会を東京の風物詩にしたいと考えているのです」

たくさんの笑顔とともにあったこのイベントは、もちろん大盛況。今ではぜひ参加したいという応募者が500人を超えるそうです。

「今年の第4回大会も、多くの方に参加していただきたいですね」



●小さなことが次世代の大きな財産に


大人の食育学習会 「地域食材と江戸の食文化」シンポジウム

江東区立小学校の食育授業

 大竹さんは昨年「江戸東京野菜 物語編」「江戸東京野菜 図鑑編」という2冊の本を発表しています。その図鑑編には、江戸東京野菜そのものだけではなく、それを作っている農家さんを紹介する文章が愛情深くつづられています。

「私はJA東京中央会の農政課長であったころから、農家さんと一体になって仕事をしてきました。私は彼らを心から信頼しているんです」

生産、そして料理や流通に関わる人がいるからこそ、江戸東京野菜を後世につなげることができると、大竹さんは強くおっしゃいます。

 人に頼まれて言葉を贈るときに「一粒萬倍」という言葉を選ぶ大竹さん。「一粒のモミを蒔くと、万倍の稲穂になる」という意味ですが、彼はその中に「どんな小さな一つのことでも、責任を持って誠心誠意取り組めば大きな成果として返ってくる」という意味も込め、その人の幸せを願うのだそうです。

 しかしこの言葉こそ「江戸東京野菜という種の多様性を後世に残したい」と願い、その復活と普及に取り組んでいる大竹道茂さんの"真摯な姿勢そのもの"を表していると、私は強く感じました。





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文:野菜ソムリエ 霜村春菜
写真提供:大竹道茂さん