野菜人・果物人
野菜人・果物人第77回後編 太田康之さん(東京団地八百屋「アトリエ四季彩」代表) 

第77回後編 太田康之さん(東京団地八百屋「アトリエ四季彩」代表) 

農業のため、日本のため、子供たちのため農家を支援し続ける

●農業への想いの原点


東京団地八百屋「アトリエ四季彩」代表
太田康之さん

ご職業 東京団地八百屋「アトリエ四季彩」代表
座右の銘 継続は力なり

 アトリエ四季彩代表の太田康之さんが生産者に特別な想いを抱くのは、自身が就農を挫折した経験からです。
 お子さんの誕生を機に、食の安全を担う農業の後継者不足を真剣に考えるようになった太田さん。7年前に勤めていた会社を辞め、自ら農家を目指して、熊本県のトマト農家へ研修に入りました。



研修ではトマト栽培だけでなく様々な作業を体験しました

 しかし就農一年目の年に、豊作による価格下落、ウイルス病の全国的なまん延、大型台風によるハウスの倒壊など様々なトラブルを経験することになります。「厳しい現実を知った」と話す太田さんは止むを得ず農家になることを一旦断念しました。しかし農業に携わる仕事を続けたいという気持ちは変わらず、業務用野菜を扱う商社へ転職します。

「研修時代に、自然の恐ろしさと共に、新規就農者や小規模の農家は販路を開拓し『売る力』がないと生計が成り立たないという現実も学びました。大量の野菜を取り扱う企業でノウハウを学び、農家の力になりたいと思いました」

 4年間の勤務で青果物流通の知識・経験・人脈を培った太田さんは、2009年に同社を退職。直ぐに独立し、四季彩を設立して、現在に至ります。



●伝える力の重要性


自ら産地を訪れ、現場のことを知るよう努めています

 太田さんが売る力と同時に大切と考えるのは店側の『伝える力』です。

「安売り合戦では売る方もつくる方も消耗するばかり。流通の末端にいる私たち小売が多様化しなければいけません。そのためには商品の価値を伝える力が欠かせないでしょう」

 そう話す太田さんにも苦い経験がありました。ナシの旬を見誤って、店に並ぶ商品の品質にばらつきが生じたとき、「このあいだと味が違う」という客の意見に対して何も説明できなかったのです。

「正直旬について理解できていませんでした。実際食べ比べてみると全然味が違ったのです。それを理解して、旬の説明ができていれば、お客様にご理解頂けたかもしれません。本当は美味しいことは私がよく知っています。生産者の方に申し訳ない気持ちでいっぱいでした」

 以降太田さんは自分で勉強し商品知識をつけながら、わからないことがあったら積極的に生産者に尋ね、お客さんの問いに答えられるように努めています。



●東京の団地発、生産と消費の交流をつくる


加工品も野菜・果物の需要を広げる方法として提案


壁に貼られた農家への「ありがとう」のメッセージ


団地という場所に秘められた大きな可能性に期待しましょう

「農家さんは私の店をステップにして、売る力をつけてほしい」と話す太田さん。実際、生産者の依頼を受ければ、他社への紹介やネットサイトへの登録も請け負います。

「私の店と、大手他社さんでは販売量が違いますから、農家さんに頼まれることがあれば手続きをおこないます。東京にある私の店での販売実績をPRして、積極的に他所に売り込んでもらいたいです」

 太田さんにとって自身のお店は手段であり、目的ではないと言います。

「私は農業のサポートをこれからもしたいと思っていますが、それは農家のためだけではありません。自分のため、日本のためであり、未来を担う子供たちのためです。一見大げさですが、それは自分の子供の未来のために農業を志した最初の想いと大きな違いはないと思っています」

 生産者の支えることが、ひいては多くの人のためになる。その想いを実現するプラットフォームであるアトリエ四季彩の店舗を、まずは都内の団地に増やしていきたいと太田さんは話します。

「この一店舗だけでは販売量が少ないので、東京の団地に数を増やしたいと思います。店を起点に農家さんとお客様が交流を持てる場をつくりたいですね。団地の真ん中で楽しい空間が作り出せたら、私にとっては最高の喜びです」

 無機的にそびえ立つ東京の団地群。その中の一軒の八百屋を起点に生まれる有機的なつながりが、生産と消費の現場を結び付ける......そんな日がいずれやってくるのかもしれません。






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文:ジュニア野菜ソムリエ 橋本哲弥
写真提供:太田康之さん 撮影:橋本哲弥(店内、メッセージボード)