野菜人・果物人
野菜人・果物人第75回前編 のじま五兵衛さん(農園「杉・五兵衛」園主) 

第75回前編 のじま五兵衛さん(農園「杉・五兵衛」園主) 

日本の農の価値を考え続けた、農園レストラン第一人者

●今は生産者と消費者が離れすぎている


農園主 のじま五兵衛さん

ご職業 農園「杉・五兵衛」園主
座右の銘 本物でありたい

「今はな、農と食、つまり生産者と消費者が離れすぎてるんや。お互いが見えへんから、生産者は自分たちでは食べへんような、化学肥料を使った作物を出荷するし、消費者は、工業製品と同じように、見た目がきれいで安い作物を買いたがるやろ」。




 こてこての関西弁で熱い想いを語ってくれるのは、ユニークな有機循環農法を実践する農園「杉・五兵衛」の園主、のじま五兵衛さん。


広大な敷地に畑・果樹園・テラスハウスなどが点在

 大阪府のベッドタウン枚方市。緑豊かな自然が残るこの地に、農園「杉・五兵衛」はあります。
 総面積5万?を有する広大な敷地では、春はイチゴにサクランボ、夏はスモモに秋はブドウ、みかんなどの果樹がたわわに実をつけ、「何種類あるか数えきれへんなぁ」という数々の野菜が生命を育んでいます。
 その合間には農園レストランにカフェ、そして有機循環農業の要であるロバの飼育舎。



●ロバを使ったユニークな有機循環農業


有機循環農業の要のロバたち

 その約40頭ほどのロバの糞を発酵させて堆肥として使用、野菜・果物を育て、収穫物をレストランで提供、その食べ残しや農園の雑草がロバの餌となり・・・。農園のなかで、全てが循環し、完結しているのです。これが五兵衛さんが実践する「有機循環農法」。そこには化学物質や添加物は一切存在しません。

「化学物質を使わないということは、畑の土、つまり環境にもやさしい。そこで育った作物は身体にもやさしい。好循環ということや」。



●日本の農業を取り巻く厳しい環境


ミカン、ブドウ、桃、イチジクなど果樹も豊富


来年に向けてブドウの木を剪定中

 五兵衛さんが、先祖代々営んできた農業を継いだのは38年前。大学をでたばかりの当時は、高度経済成長まっただ中でした。家業が農業である大学の同級生たちも、時代の波にのり、サラリーマンの道を選んだ人が多かったこの時代。

「農業の担い手がどんどん減っていく」と、危機感を募らせた五兵衛さん、日本の農業の将来のためにも、自らは農業を生業とする道を選んだのでした。

 とはいえ、貿易摩擦により、海外からの農作物が大量に輸入されるようになり、さらに内需拡大策として施行された総合保養地域整備法(リゾート法)により、多くの農地が開発や転用に利用され、日本の農業を取り巻く環境は厳しさを増していったのでした。



●日本の農の価値とは?


農園内では数え切れないほどの野菜を栽培

「そんな時代背景にあって、日本の農業がひとつの産業として地位を確立し、生き残る為にはどうしたらええか? と考えたんや。これからは世界がひとつのマーケットや。そうすると、なんぼ頑張っても、例えば作付面積では、オーストラリアやアメリカには勝たれへん。値段では人件費の安いアジア諸国に負ける。このままでは日本の農はすたれてしまう。そこで『農の価値は何や?』という命題に突き当たった」。




五兵衛さんの信念に賛同して集まったスタッフが働いています

 その命題を常に念頭に置きながら農業に勤しむなかで、周りの農家の跡取りもほとんどサラリーマンになり、農業人口が高齢化していく様子を目の当たりにし、ますます日本の農業の将来を憂えた五兵衛さん。

「このまま担い手が減っていけば、日本の農の後ろにあるもの、例えば農作物を生命あるものとして慈しむ心、自然とのふれあいや文化の伝承、地域・人々との関わり、環境・生態系の保全など、いわば無形財産のようなものもなくなってしまう。これや、と思った。価値はそこにあると気づいた。そこでまず消費者に生産現場を見てもらい、その場で食べてもらい、農を知ってもらおうと考えたんや」。

※<後編>では、日本初の農園レストラン誕生と五兵衛さんの今後の夢について紹介します。



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文・撮影:ジュニア野菜ソムリエ 尾崎美鈴