野菜人・果物人
野菜人・果物人第74回後編 吉野秀一さん(農業) 

第74回後編 吉野秀一さん(農業) 

農業と他産業を繋げ、無限の可能性を引き出したい

●感じ続けていた「農業は面白い」という想い


吉野農園 吉野秀一さん

ご職業 農業。茨城県農業研究クラブ連絡協議会参与
座右の銘 人と人とを繋げる架け橋になる

 農家の家に生まれた子供が家を継ぐことを決意する。そのタイミングは、人によって様々です。多くの農業後継者はその時期で悩むことが多いのですが、吉野秀一さんの場合は自然と「農業をやりたい」と思うようになっていたと話します。


直売所は店内がよく見える、人が訪れ易い造りになっています

「『何かこれ』っていうきっかけはないんですよ。強いて言うなら、子供の頃見た、直売所で働く両親の姿でしょうか。父や母がお客さんと楽しそうに接する姿を見て、やりがいのある仕事だと感じたのです。
 正直、見ていて楽しいことばかりではありませんでした。いい加減な気持ちで農業は出来ないなと強く思いました。だからこそ、そんな大変な仕事をしている親の働く姿に惹かれたのかもしれません」

 吉野さんは大学を卒業後、直ぐに就農、そのまま生産者として働き現在に至ります。今では自身も直売所の店先に立ち、米や野菜を販売するようになりました。

「自分のつくった農産物が『美味しい』と言ってもらえるのは、ありきたりかもしれないけど本当に嬉しいし、やる気が沸いてきます。子供の頃感じたことは間違っていませんでしたね」



●都会から学んだ直売所の在り方


明るい店内、見て楽しめるディスプレイもこだわりの一つです

 農業人としての原点になったかもしれない、吉野さんの現在の直売所は一風変わった佇まいです。店の内装や商品のディスプレイなどは、私たちがイメージする直売所とどこか雰囲気が異なります。
 それもそのはず、吉野さんは以前、東京・青山界隈に2週間ほど滞在し、小売店や飲食店などをリサーチしていたのです。

「ただ野菜を並べているだけではいけないと思い、都内の様々なお店を見て学んだ、アイデアやノウハウをこの直売所には生かしてあります」

 吉野さんはこの直売をさらに発展させたいと言います。

「農産物加工品の販売が次のテーマ。そのために食品営業許可を取得し、店に調理場を設けました。ここで加工や料理をおこなって、お客さんに提供したい。食べ方の提案もここから発信できたら面白いですよね」



●つくるだけではない、どうやって売るか


トマトのハウスにて。PB「甘ちゃんトマト」は店の人気商品

 吉野さんが販売する農産物は、自家製の有機肥料を使い、極力農薬を減らした安全・安心の野菜です。他にもオレンジのカボチャのような珍しい品種も栽培し、商品の種類を増やしています。

「私たちのこだわりの多くは市場出荷ではあまり評価されません。でも直売なら私たちの熱意や工夫を直接お客さんに伝えられ、私たちの苦労に見合った評価を戴くことができます」


チラシや看板を用いて、自分たちのこだわりを自ら発信

 直売の魅力を語る吉野さんは、地元スーパーのインショップにも力を入れており、生産者仲間と共に野菜を出品しています。今でこそ人気のショップになりましたが、出展した当初は全く売れず、売れ残った野菜を持ち帰る日々が続いたそうです。

「生産に関してはプロなのですが、売る方法に関しては勉強不足でした」と言う吉野さん。その後エコファーマーの取得やPOPを使って自分たちのこだわりをアピールし、正月の餅つきのような季節性のあるイベントを実践。お客さんの口コミやスーパーの広告などで徐々に野菜が知られ始め、売れるようになりました。

「必死でしたね。でも自分たちが本気になると周囲の色々な人たちが協力してくれるとわかったのは売り上げ以上に大きな収穫でした」

 ノウハウを身につけた吉野さん。現在は県内の複数のスーパーに野菜を出荷しています。



●農業の多面的機能が多彩なチャンスつくり出す


「可能性はいくらでもある」 農業の未来を吉野さんは語ります

「タテ、ヨコ、ナナメのネットワークがこれからの農業のカギ」と言う吉野さん。
 生産者の仲間づくり、生活者との交流、他産業との連携、都市のアイデアの吸収・・・・・・自身がおこなってきた活動は畑だけにいては難しいものばかりです。

「野菜づくりへのこだわりはたくさんありますし、毎年毎年勉強だと思います。それが、農業という仕事の面白さでもあり魅力でもあります。しかし、私はその仕事の部分にプラスαの部分が必要だと考えます。他との繋がりが今農業には大事だと思うのです。


 ビジネス、町興し、癒しなど農業の多面的な価値が注目される今だからこそ、繋がる部分もたくさんあるはず。私はその架け橋になれるよう、地道に努力していきます。そして『農業がやりたい!』という、後進が続くようなモデルケースをつくっていきたいです」

 畑から飛び出すことの必要性を語った吉野さんですが、最後にポツリと一言発しました。

「でも青山に滞在した5日目、突然土が恋しくなってしまったんです。慌てて並木の根本にある土に触りました。自分は根っから農業人なんだな、ってあらためてわかりました(笑)」

 外部での活動に力を入れても、本業はあくまで農業。
 筑西市という故郷、畑という拠点。そして直売所にある自身の原点。
 土台がしっかりあるからこそ、様々なものと繋がれる。活動が広がっていく。吉野さんが思わず言った言葉の中に、着実に想いを実現していく成功の秘訣が隠されている気がしました。




文:ジュニア野菜ソムリエ 橋本哲弥
写真提供:吉野秀一さん
撮影:橋本哲弥(トマトハウス、チラシ)