30,000人のベジフルライフ〜野菜ソムリエの活躍〜
30,000人のベジフルライフ〜野菜ソムリエの活躍〜吉田 由美さん(シニア野菜ソムリエ)

吉田 由美さん(シニア野菜ソムリエ)

「共感」の力で生産と消費を繋げる

●生産現場の情報を生活者に伝える仕組みづくり


シニア野菜ソムリエ 吉田由美さん

 東京都・表参道のビルにある屋上菜園。シニア野菜ソムリエ吉田由美さんの畑もその一区画にあります。取材で伺った12月は葉物野菜の収穫シーズンですが、昨夏の猛暑で結果は芳しくないようです。

「天候に左右されるという当たり前のことを生活者は意外と知りません。これが余計なクレームや不信に繋がっている一面もあります」

 そう話す吉田さんの職場は、農畜産業振興機構(ALIC)という独立行政法人です。現在は野菜の消費拡大を推進する部署で、野菜の消費拡大につながる情報提供を主な仕事としています。


「大規模生産・流通を支える制度に基づいて事業を行っている経緯があり、今までは生産・卸売・小売など流通の川上に目を向け、生活者に向けてのアプローチが弱かった一面があります。
 しかしこれからは、生産と消費のあいだのギャップを解消するため、生活者に野菜のことを知ってもらい、共感してもらう工夫をする必要があると考えています」



●行政だからできることもある


屋上菜園にて。一坪ほどの畑ですが、野菜づくりに携わり続けます

 吉田さんと野菜ソムリエとの出会いは8年前に遡ります。当時の部署での仕事で、当協会理事長に出会ったことがきっかけです。野菜ソムリエのカリキュラムに興味を持ち、資格取得に挑戦し、ジュニア野菜ソムリエに合格しました。

 大学の農学部を卒業し、野菜に携わる仕事をしていた吉田さんは、ジュニア野菜ソムリエの資格だけでは物足りなさを感じ、より上級の講座を受講します。しかしここでは一回で試験を通れず、野菜ソムリエの資格には東京で二回、名古屋で一回挑戦することになりました。ところがこれが結果的にプラスになります。


「最初に講義を受けた渋谷8期の仲間だけでなく、9期や名古屋の方々と広く交流できたことがプラスになりました。行政で働く私は『机上の議論ばかりしているのではないか』とギャップを感じることが少なくありませんでした。しかし講座に通う過程で、民間で働く方々のシビアな話を直接聞くことができ、自分の立ち位置を確認できたのです。
 確かに私の仕事は目には見えにくいかもしれません。でも『縁の下の力持ちとして、農業のためにできることがある』と自信を持てました」

 2010年には最高峰であるシニア野菜ソムリエの資格を取得。「自分のできること」に気づいた吉田さんは、新しい挑戦に意気込んでいます。



●誰でもアプローチできる、農業への入り口をつくる


代官山マルシェの様子。売り場全体のレイアウトも担当

代官山マルシェで企画した限定ランチ。食材は出品農家の提供

「今、時流は農へ確実に向いています。しかし興味はあるけれど、何をしたらいいかわからない生活者は多いのではないでしょうか」

 そう話す吉田さんが現在注力していることが農業への入口づくりです。ALICのwebサイト内のコンテンツで、旬をテーマにした野菜の産地を紹介しています。また野菜にまつわる業界のプロを招き、勉強会をおこなう「野菜セミナー」を開催。企画運営に携わり、生活者団体への情報提供、役職員の知識向上を図っています。

 個人での野菜ソムリエ活動としては、昨年9月にアパレル企業とのコラボレーションで、東京の代官山でマルシェを総合プロデュースしました。

「農業をスタイリッシュに演出することでも、入口を広げられると考えました。『生産と販売をオシャレにつなぐ』を目標にこれからも色々仕掛けていく予定です」

 吉田さんは「オシャレ」というキーワードでマルシェに人を呼び、そこから生産者や産地への興味を生活者に持ってもらいたいと考えています。

「マルシェは、真面目に良いものをつくっている生産者を、生活者に知ってもらえる場所です。人間は感動すれば、それを与えてくれた対象を大切に扱います。農業のことを知って農家や産地の想いに共感すれば、消費に繋がると私は確信しています」



●農が生む「共感」が様々な世界を結びつける


インドのローカルマーケット。現地は農の可能性に溢れています

ALICのwebコンテンツ「ベジシャス」を担当、毎月産地へ足を運びます

 吉田さんは「農への共感は全世界共通」だと言います。なぜなら農業生産は世界どの国でもおこなわれているからです。

「昨年、旅先のインドで現地の広大な農地、野菜の種類の豊富さ、食文化に驚きました。私は言葉を全く話せませんでしたが、その『農』への感動から、現地の人々と交流を深めることができたのです。世界各国、農をキーワードにどこでも会話ができる、共感ができると実感しました」

 国内外問わず、吉田さんは産地に寄り添い、情報発信を続けたいと話します。

「等身大で、生産者と理解し合える存在でありたいです。現場からかけ離れた机上論や上から目線は絶対いけません。生産者一人一人のプロ意識を汲み、共感することが大事。寄り添って、共感し、繋いでいく。私の役割はそこにあると思います」

 お互いを知り、寄り添い、共感すれば、生産と消費のギャップだけでなく、言葉や人種の壁も越えられる。生産の現場と気持ちを共有することの大切さを、吉田さんはこれからも発信し続けます。




○野菜ソムリエの旬ナビゲーション【ベジシャス】
http://www.alic.go.jp/y-suishin/yajukyu01_000076.html
文:ジュニア野菜ソムリエ 橋本哲弥
写真提供:吉田由美さん