30,000人のベジフルライフ〜野菜ソムリエの活躍〜
30,000人のベジフルライフ〜野菜ソムリエの活躍〜中野 明正さん(シニア野菜ソムリエ)

中野 明正さん(シニア野菜ソムリエ)

研究成果を生活者に届けるための橋を架ける

●研究者としての仕事を外に向かって広げたい


シニア野菜ソムリエ 中野 明正さん

 日本の頭脳とも言われ、様々な研究機関が集まる茨城県つくば市。
 シニア野菜ソムリエ中野さんが勤める農研機構(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構)も同市に拠点を置く研究所の一つで、食料・農業・農村に関する研究を総合的におこなう日本最大の機関です。中野さんと名刺交換をさせて頂くと、肩書には農学博士と共にシニア野菜ソムリエの文字が。

「シニア野菜ソムリエの資格を取得している研究者は珍しいのではないでしょうか。名刺交換をすると、必ず話が弾みますね」

 そう話す中野さんが野菜ソムリエを知ったのは転勤がきっかけでした。それまでは野菜の栽培や品質に関する研究をしていましたが、農水省の農林水産技術会議事務局で、農業研究の企画・推進などを担当することになったのです。


高品質・多収量のトマト栽培法や、次世代の有機栽培を研究しました

「野菜だけでなく、果樹や食品にも仕事の幅が広がったことで、流通や消費などを含め体系的に農産物について学び直さねばと思ったのです。生産資材、流通、食品関係の方、それに農に関心のある一般の方々の知り合いも増え、次第に多くの人に農産物の奥深さを知ってもらうことが重要と考えるようになりました。
 野菜ソムリエを知ったのはそのときです。自分の仕事をさらに外に向かって広げたい、そんな想いで資格取得にチャレンジしました」



●研究成果は生かさなければ意味がない


中国でよく食べられる「茎レタス」。海外出張は絶好の情報収集源です

JICA専門家として、海外で技術を広めることも、研究者の重要な役割

 一見、研究者とは無縁に思える野菜ソムリエですが、大きな可能性を秘めていると中野さんは話します。

「農研機構の研究対象は野菜に限らず幅広く、農産物全般の生産性や品質の向上、農業機械の開発、食の安全や機能性の研究等々、豊かな食と農へを目指した様々なアプローチをしています。
 しかし、私たちが得た研究成果は活用されて初めて意味を成します。いかに国民の皆様に還元するかについて、今まで以上に取り組みを促進することが必要です」

 中野さんは現在、本部企画調整部の研究調査チームのリーダーを務めています。農研機構全体の研究成果をまとめたり、未来に向けてどんな研究が必要かを考え、発信する役割を担っています。

「研究の結果得られた情報をわかりやすく発信するために、野菜ソムリエのセンスが生きてきます。ソムリエとは感覚を言語化できる能力を持つ人を指すそうです。私も科学的アプローチを交えながらも、自分の感性を大切にして、素直に表現することを心がけています」

 と、話す中野さん。実際、農家や生活者に向けて講演などを行い情報発信にも力を入れています。他の野菜ソムリエとの交流にも積極的で、情報収集、人脈づくりにも熱心です。ここではシニア野菜ソムリエコースで学んだスキルが生きているそうです。

「ビジネスやビジュアルマーチャンダイジングなど販売に関する講義も多く、これは現在の仕事で考えをめぐらせるときに役立っています。
 またシニアの同級生には,放送関係、種苗会社、量販店の方など、多彩な方がおられ,大変刺激になりました。多様な人たちとの交流の促進に野菜ソムリエは役立っていると思います」



●技術や成果を多くの人の元に届ける


農研機構の一般公開では農産物の魅力を熱く語ります

農研機構内『食と農の科学館』にて。「皆さんのもとへ技術の橋渡しをします!」



 研究者として活動する一方、中野さんには挑戦したいことがあるそうです。

「私の実家は農家で、将来は就農も考えています。その際にはキャリアを生かして、ひと味違った農業をするつもりです。
 例えば、これまで高品質なトマト栽培の研究や、植物工場の調査をしてきた経験を生かし、今までにない高付加価値で、生産性の高い野菜・果樹栽培などを実践したいです」

 経験を生かし、指導者としての活動も考えています。

「途上国も含め海外も各地を巡りました。自ら生産をしながら、国内外の農業研修生の受け入れ先としても機能する施設をつくり、『農と食の寺子屋』のような場所にしたいと考えています」

 今後の展望を語る中野さんは、今後の自らの役割は「架け橋」と話します。

「『象牙の塔』という言葉があります。学者などが研究に執心し、現実社会と疎遠になったとき使われる表現です。その言葉のように、研究の現場と生活者の暮らしの間には深い谷があります。我々の研究を理解してもらえなかったり、逆に我々が生活者の望んでいるものがわからないことが往々にしてあるのです。
 私たちの成果は、国民の皆様に還元して初めて意味を成します。私は谷に橋を架けたい。技術を生活の場に持っていける、ブリッジマンでありたいです」

 資格が橋柱となり、研究者が橋桁を架ける。中野さんは、野菜ソムリエの新たな可能性を私たちに提示してくれたのではないでしょうか。

 現在、研究中の案件の中には、まだまだ私たちの食卓に届いていない、画期的な品種や生産方法、安全で豊かな食生活を作り出す夢のある成果の芽が出てきているそうです。一日でも早く、一つでも多く、そのような成果が私たちの元に届くように、中野さんは今日も奔走します。




文:ジュニア野菜ソムリエ 橋本哲弥
写真提供:中野明正さん
撮影:橋本哲弥(『食と農の科学館』にて)