30,000人のベジフルライフ〜野菜ソムリエの活躍〜

市村 典子さん(野菜ソムリエ)

生産者、生活者、野菜ソムリエ三者の立場から「野菜の生命力」を伝える

●農業は人の命を支えている


野菜ソムリエ 市村典子さん
(アクティブ野菜ソムリエ認定)

 駅から車で10分も走ると、おだやかな田園風景が広がる茨城県つくば市。そこに市村さん家族が経営する「市村夢農園」があります。露地栽培、施設園芸あわせて約20アール、水田2ヘクタール。野菜の主力はトマトやトウモロコシでしたが、最近は多種類、多品目の野菜も作っていらっしゃいます。
 アクティブ野菜ソムリエでもある市村典子さんは、お忙しい中、農業や野菜への思いを次から次へと迸るように語ってくださいました。

「結婚前は車内販売の仕事をしていたのですよ。でも、夫の「農業は人の命を支えている」という言葉に衝撃を受け、農業に生きることを決意して結婚しました」


農林水産省の農林水産研修所つくば館での「地産地消推進研修」の講師として参加者へ説明する市村さん

 子育てをしながら、必死に農作業を覚え、気がつくと結婚して26年。このままでいいのかと思ったときに以前ラジオで聞いた野菜ソムリエの資格のことを思い出されたそうです。

「直売所で、生活者の方とよく会話するのですが、生産者がきちんと知識を持って生活者に説明してあげられなければ、生活者は不安だろうと気付いたのです」

 もっと知識や視野を広げ、触れ合いの場を持ちたい。ご家族を1年半かけて説得して市村さんはジュニア野菜ソムリエの資格を取得されました。最初はジュニアで十分と思っていた市村さんですが、周りの野菜ソムリエ資格取得者から、「現場を知っている人こそ、野菜ソムリエの資格を取るべき」と促され、一念発起。忙しさを言いわけにせず、見事に一度で野菜ソムリエに合格しました。



●生産者であり、子育て経験者ならではの説得力


「市村夢農園」ハウス栽培のキュウリ畑


野菜ソムリエとして初めて活動した「アート&カフェ サンゴミズキ」で野菜への思いを語って下さる市村さん

 野菜ソムリエとしての初めての活動は、地元の知り合いのカフェでの「野菜講座」。もともと人との会話が大好きだった市村さん。友人たちと協力してわきあいあいの気持ちが通い合う楽しい講座になったそうです。

 現在は農作業に従事しながら、アクティブ野菜ソムリエとして、小学校や行政からの要請に応え、講師や講演活動で、野菜の知識や楽しさを伝えていらっしゃいます。
 小学校で野菜作りの指導をなさったり、子供や親と接することも多い市村さん。幼稚園での講演では予想以上のたくさんの親が集まったそうで、子供を持つ親は不安をかかえていると感じたそうです。そんな時、農作物は個性を語るのにとてもいいとおっしゃいます。

「同じ房になるトマトでも、赤くなる時期はみな違う。でも、最終的にはみな赤くなります。子供も同じ。今はまだ青くても焦らなくて大丈夫ってお話します」

 まだ青くても、小さくても大丈夫。こんな言葉をかけてもらったらどんなに安心することでしょう。生産者であり、子育てを経験した生活者でもある市村さんの言葉だからこそ、広くて深い信頼感と説得力があります。



●イタリアンシェフとのコラボ「夕食会」


<アルトボスコ>夕食会トウモロコシづくしのメニューより「焼きトウモロコシと野菜のサラダ仕立て 自家製リコッタチーズ添え」

<アルトボスコ>夕食会トウモロコシづくしのメニューより「千葉県産真鯛・詰め物をした花ズッキーニのワイン蒸し」

 また、市村さんは地元のイタリアンのシェフとコラボして「夕食会」を開いています。市村さんが育てた野菜を中心に食材を提案、農家ならではの視点で野菜の話をなさっています。毎回、テーマを決めた「夕食会」は大好評で、市村さんとシェフは、実にいきいきと次回の相談をされていました。

「プロのシェフと一緒に仕事をさせてもらって、野菜の扱い方を逆に学ぶことが多いのですよ」

 市村さんが育てた野菜が、プロのシェフによって、より、美しく、美味しく生まれ変わる。シェフにとっては、野菜との距離が縮まり、程よい緊張感で料理を創造できる。お互いに切磋琢磨できる「夕食会」は心待ちしている方が大勢いらっしゃるそうです。



●野菜ソムリエになって「貯人」ができた


定期的に開かれている「市村夢農園」の出張販売

「野菜ソムリエになってから、人との輪がひろがり、縁が増えました。貯金はできないけれど、まさに「貯人」ですね。生産者、生活者、野菜ソムリエ三者の立場にたてることを幸せに思います」

さらに、市村さんは何でも調べ、よく勉強するようになったとおっしゃいます。また、

「以前の農家は、農作物を「売る」のではなく「市場においてきた」と言うことが多かったのですよ。これからは、農家は自分で作ったものをきちんと最後まで売るということが大事だと思います」

 人任せではなく、最後まで自分で責任を持つことが、農家の今後の課題。市村さんは友人の農家が作っためずらしい野菜には、その野菜の食べ方やアピールポイントをポップに書いて添えています。それが生産者と生活者の出会いのきっかけにもなっているそうです。



「ジャンボにんにく」に添えられた市村さん手書きのPOP

「市村夢農園」の野菜が置かれている直売所で

今後は今のペースを大切にしながら、

「人が食べるものを作るには人の手がかかっているということを押しつけではなく、自然に伝えていきたい。生活者の方には、生産者やお店の人とうまくつきあって自分が賢くなることを覚えようと言っています。作ってもらうこと、食べてもらうことにお互いに感謝していきたいですね」

 地元を愛し、地元に根をはった活動を続ける市村さんの野菜談話は、つくばの土地のように豊かで、いつまでも尽きることがありません。

「こんなにしゃべる農家はいないとよく言われます」

とはにかむようにおっしゃる市村さん。生産者、生活者、そしてアクティブ野菜ソムリエとして、市村さんの野菜への熱意は今後もどんどん広がり、周りに伝わっていくことでしょう。




文:野菜ソムリエ 田尻良子
写真提供:市村典子さん
撮影:田尻良子(キュウリ畑、アートカフェ、POP、直売所にて)