野菜ソムリエの思ひ出の味
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てんこ盛りのさやいんげんのおひたし

ジュニア野菜ソムリエ荻野智代さんの思ひ出の味

 小学生の頃のことだ。父の仕事の関係で、神奈川県から福島県へ引っ越し、転居先の社宅が落ち着くまでの間、旅館に滞在することになった。そこで食事の際にサービスとして出されたのが、中鉢にてんこ盛りで供された「さやいんげんのおひたし」だ。当時の私たちには、さやいんげんは付け合わせにちょっとだけ添えられる贅沢な野菜というイメージ。お肉を食べるよりも豪華に感じて、「こんなに贅沢していいの?」と子ども心に思ったものだった。私は素朴に生姜醤油で、弟はマヨネーズで食べた。ちょうど夏休みの時期、まさしく旬の盛りをむかえていた福島県産のさやいんげんは、とても柔らかくて、甘く、キュッキュッとした歯ごたえで、いくらでも食べられるおいしさであった。
429_memory.jpg  それまでも野菜好きではあったが、福島県へ来て、田んぼや畑に囲まれて暮らし、ご近所から新鮮な野菜を分けていただくうちに、さらに好きになっていった。なにせ、旬のおいしい野菜を存分に味わえるのだ。野菜好きが高じたわけでないが、大学は農学部へ進学し、就職は県職員の農業職となり、専門は野菜担当となった。就職してから知ったのだが、福島県は全国でも有数の夏秋さやいんげんの産地だった。なかでも、阿武隈山系の中山間地域のさやいんげんは、昼夜の寒暖の差が大きいことから、色鮮やかで柔らかく甘い。

 振り返ってみると私の人生の節目には、いつも「さやいんげん」がある。じつは、夫との出会いもさやいんげん関連の仕事がきっかけだった。お互い担当でなければ、今はなかったように思うと感慨深い。
 地味にみられるさやいんげんだが、食感、彩り、甘みを兼ね備えた、名脇役だと思う。一番おいしい食べ方は、思い出にも残っている「おひたし」だが、軽くゆでたさやいんげんをにんにくスライスと一緒に油で炒め、めんつゆ少々で味付けした「ガーリック風味の焼きびたし」もわが家のお気に入りレシピだ。

 仕事で地産地消部門の担当をしていた頃、ジュニア野菜ソムリエを取得し、野菜ソムリエコミュニティ福島に加入した。多くの仲間とつながりを持つことができ、業務以外でも福島県産の農産物をPRする機会が増えた。しかしながら、福島県産の農産物は、東日本大震災による原発事故の風評に大きく影響を受けているのが実情だ。安全安心は前提で「おいしいふくしまいただきます」をモットーに、復興に向けて少しでも活動できればと日々思っている。

荻野智代さんのプロフィール
福島県在住。ジュニア野菜ソムリエ。福島県職員(農業職)。野菜改良普及員として入庁し、農業職に従事。野菜ソムリエコミュニティ福島・副会長。コミュニティ福島におけるイベントや研修会企画を担当している。 フェイスブックはこちら
取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ