野菜ソムリエの思ひ出の味
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種を取って育てた、にんじん

ジュニア野菜ソムリエ及川拓郎さんの思ひ出の味

 わが家は山奥にある昔からの農家だ。出荷しているのは少しの米だけ。家庭菜園には広すぎる畑で、気ままに野菜を育てている。かつての自分は、畑や野菜に見向きもしなかった。それが一転したのは、東京へ仕事で一時出向し、初めて実家を離れた時のことである。スーパーに並ぶ野菜に艶がなく、少しくたびれているようにも見えた。今まで自分が食べていた野菜が、畑から取ったばかりの新鮮なものであったと感じ、野菜や農業のことを見直そうと思ったのだ。
 ジュニア野菜ソムリエ取得後は、それまで祖父母が中心にやっていた家の畑に出て、手伝うようになった。クワ仕事や種の蒔き方を教わり、クワを使った畝たてはだいぶうまくなった。野菜は不揃いなものばかりだが、艶のある新鮮なものがいつも畑にある。

427_memory.jpg  祖母が他界した年から、畑仕事は母と二人でするようになった。冬支度に、小豆、大根、白菜などの収穫、収穫を終えた野菜の片付けに追われているうち、まだ残っていたにんじんの存在をすっかり忘れてしまっていた。
 春になって雪が溶けた畑では、収穫を忘れられたにんじんが芽吹いていた。そのまま放置しておくと、暖かくなるにつれてぐんぐん大きくなった。自分の背丈くらいまで育った頃には、いつしかたくさんの白い花がついていた。小さな花が密集し、傘のような形をした可憐な花であった。初秋には全体が枯れあがり、花の部分にたくさんの種がついた。にんじんを育てるには少し時期が遅くはあったが、新たに耕した畑へバラバラと種を蒔いてみると、たくさんの芽が出てきた。発芽率が良かったため、間引きにんじんをたくさん味わうことができた。若い葉の部分は刻んでオムレツに入れて食べたりもした。セリ科特有の香りがさわやかであった。種から育てたにんじんは、ワイルドな風貌で味も香りも濃いような気がする。隣のおばあさんからは、昔は種取りして育てたものだよと聞き、他の野菜の種も取ってみることにした。
 今年は、にんじんの他に、かぼちゃ、落花生を自家採種した種で育てている。小松菜、トマトも来年のために種を取ってみた。芽が出るかどうか、春までのお楽しみである。

及川拓郎さんのプロフィール
岩手県在住。ジュニア野菜ソムリエ。普段は電気系の職場で働き、週末はときどき農業に汗を流す。お祭りやイベント活動にも積極的に参加して日々を楽しんでいる。
取材 / 文:野菜ソムリエ / ベジフルビューティーアドバイザー タナカトウコ